【蔵元インタビュー】泉橋酒造 橋場 友一さん 第4回「山田錦と楽風舞」H31.1.30UP

さがみ酒米研究会の発足以来、約20年に渡って栽培を続けてきた「酒米の王様」山田錦。

 

一方、最新技術で開発された新品種を育て上げ、平成30年に神奈川県の産地品種銘柄への登録を果たした楽風舞。

 

この対照的な2つの酒米について、橋場さんに伺いました。

 

◆蔵元インタビューの掲載状況

【第1回】「始まり」2018.5.27UP

 

【第2回】「栽培醸造蔵への道」2018.7.28UP

 

【第3回】「オール純米酒への道」2018.10.7UP

 

【第4回】「山田錦と楽風舞」2019.1.30UP

 

【第5回】「泉橋酒造のこれから」 2019.6.29UP

橋場友一さん@稲刈り会


相模原の「大島」が世界的に有名な場所になる!?

 

――― 海老名や相模原市大島では田植えを、同じく相模原市田名では稲刈り作業を取材させていただいた山田錦ですが、栽培面積は合わせて33.5ヘクタールにもなるとか。中でも大島のロケーションの素晴らしさには目を見張りました。

 

そうですね。大島は相模川の上流部にある中州です。両側を川が流れる “島” なので隔離されており、周囲から異物が飛散して来にくいところが良い。田んぼが広がる光景の美しさもあり、私個人としては勝手に(笑)、将来、世界的に有名な場所になると思っております。

 

――― 平成30年、楽風舞が神奈川県の産地品種銘柄に登録となりました。以前の山田錦も含め、登録に際してはご苦労があったかと思います。

 

山田錦は大変でした。実は最初の頃、あまり産地品種銘柄にすることに積極的ではなかったのです。ただ栽培量が増えたため、平成24~25年頃に県に登録を依頼しました。その時に県の方が「こんなに作っているのか!?」と驚いた。

 

――― そこまで多いとは知らずに。

 

はい。ただ当初は泉橋酒造と酒米研究会しか作っていないから「公共性がない」という判断があったようで登録に至らなかった。しかし収穫量が1200俵にもなってきたため、最終的には「泉橋酒造の強い要望により」という文言が入って、平成26年に登録となります。

 

――― 登録前に開かれた「意見聴取会」の議事録を見ると、若水との比較、種子の入手方法、病気・倒伏の状況、田んぼごとの品質のバラつき、他の酒蔵へ協力する意思があるかなど、かなり細かい部分まで問われています。しかし後年の楽風舞に関する意見聴取会では、比較的簡素な質疑応答だったように感じました。

 

平成26年の登録以降も山田錦の栽培量を増やしてきましたから、県や国からの信用が付いたのかもしれませんね。


ボジョレーより早く!

 

――― 楽風舞を作り始めたキッカケは何だったのですか?

 

まず山田錦の栽培量に限界が見えてきたこと。山田錦は晩生ですから10月半ば以降の収穫です。それを検査して、使い始めるのは10月の終わり頃になる。今後、栽培量を増やしていくとしたら、使える時期がさらに後ろになってしまいます。

 

しかし泉橋酒造は5月に苗作りを始めるのでゴールデンウイークまでには酒造りを終わらせなければいけない。そのような状況があり、早生系のお米が欲しかった。また、ボジョレーヌーボー(※11月の第3木曜日に解禁)より早く新酒を出したかった(笑)。

 

――― 意外な理由もあったのですね(笑)。早生系の酒米で楽風舞を選んだのはどうしてですか。

 

ちょうどその頃、農研機構から「新品種『楽風舞』を開発しました」というDMが来た。それで「楽風舞? 早生!? それなら使える!」と。ただどうしてウチにDMが来たのかは謎なんですよね。

 

――― なぜ来たのでしょう?

 

聞いたのですが、よくわからないと言われました(笑)。向こうも「どうして泉橋さんに行ったのでしょうね!?」などと言ってましたが。農家さんには「今は山田錦一辺倒なので、早生系品種もあった方が収穫期が違うので面積を拡大できる」と話し、試験栽培を経て5年前からスタートしました。

 

楽風舞に関しては種を扱っている業者が全国で3社(平成31年1月現在)あり、そのうちの1社が泉橋酒造です。「種から育てて販売してもよい」というライセンスを持っているから、今までとは全く違う立ち位置にいます。今後、どうしていくかはわかりませんが、広げられる可能性がある。

 

――― 流れの “上流” にいる。山田錦の種を買って育てるのとは全然違うのですね。

 

はい。しかし造ったお酒が美味しくなければ意味がありません。まずはそれが大事なところです。


楽風舞の酒造りは、「古くて新しい」

 

――― 味わいの特徴は?

 

“親” が五百万石ということもあり、透明感のある「あっさり」「さっぱり」です。熟成しても山田錦のように滋味深く、余韻が長く、濃い味にはならない。口の中の上の方で味わう感じですね。

 

――― 熟成させて楽しむよりは、早飲みする方がオススメでしょうか。

 

早く飲んだ方が良いですね。種類は軽くて飲みやすい純米酒と、生酛造りの純米大吟醸酒を造っています。生酛の方は、最新のお米(=楽風舞)で古い技術(=生酛)を使った「古くて新しい酒造り」ですね。

 

――― 今後の展開が非常に楽しみな品種です。一つの武器に成り得るのでは?

 

そうですね。今後「酒米作りからやっていきたいんだ!」という酒蔵や農家さんが出てくる可能性もありますよね。その時に「○○の種が欲しい」と言われても、それを弊社が売れない可能性もある。でも楽風舞ならそれができる。

 

――― 泉橋酒造単体のことだけを考えてというよりも、神奈川県の農業や酒造業界のこともイメージの中にある?

 

そうですね。短期間で産地品種銘柄に決まったのも、そういったことが考慮されたのかもしれません。やはり地元の農業のため、狭い海老名や座間、相模原だけではなくと考えたらプラスになると思う。

 

ただ、種として販売する場合、酒米として買うよりも高くなってしまいます。それにしても相当数を売らなければ商売にはならない。だからそれ程うまい話では全くないのですが、まず色々な人が作らないと楽風舞が認知されていきませんから。

 

山田錦とは米作りが違うし、造り方や出来上がったお酒も違うところが面白い。泉橋酒造や農家さんにとっても絶対に必要なお米です。


~編集後記~

 

◆ 春夏秋冬の各回で泉橋酒造の社員さん4人にお話を伺いました。

 

そこで強く感じたのは「皆がそれぞれ個性と自負を持ちながら、同じ方向を向き、会社が目指す所へ進んでいる」こと。

 

◆ 蔵元インタビュー最終回(第5回)では蔵を支える「人材」について、また泉橋酒造の「これから」について橋場友一さんに伺って参りたいと思います。