【農家インタビュー & 田んぼアルバム】酒米農家 加藤 欣三さん

若水は神奈川には合ってるな

 

― 若水栽培を始めたキッカケは?


 最初、農協の指導課から「作ってみないか」って言われてさ。昔、親父が酒米作ってたんだけど、それが山田錦だからヒョロヒョロ伸びて倒れるわけよ。それで俺も躊躇してたんだけど、「若水って品種はそんなに伸びないから、倒れないよ」っていうから、「そんじゃ、作んべや」ってことで始めた。


―― お酒用の酒米と、ご飯用の飯米で作り方に違いはあるのですか。


 籾の選別をするときの網目を20ミリにしないといけないけど(注:飯米は18ミリ)、栽培そのものはそんなに変わらない。あとは絶対に倒さないことだな。でも若水はもともと丈夫な稲だから、めったに倒れねえ。神奈川には合ってるな。


― 毎年、苗を作るところからスタートするんですよね。


 そう。飯米も合わせて今年は8400枚だから、四十町歩分くらいだね。みんな自分で苗を作らなくなってるから、段々注文が増えてるよ。


とうとう勤めちゃったよ(笑)

 

― 育苗は大変なんですか?


失敗があるからな。まだらに出てきたり、温度管理がうまくいかなくて生育にばらつきが出たりして。


― 苗がうまくできるかどうかで、その後の生長に影響がある?


響くね! 昔から「苗半作」って言うくらいだから。種を蒔いたら毎日、朝に温度を見て、昼に見て、夕方また見る。ハウス内の温度も外気に左右されるから。あと、芽が出てくると「発芽熱」が出るわけよ。

 

すると30℃に設定してあっても33℃や34℃まで上がっちゃうから温度を下げてやる。32℃までは許容範囲だけど、それ以上になると芽のアタマが白くなっちまうんだ。高温障害だな。出かけるときは女房に、「おーい温度を頼むよ」って言っておくんだ。

 

― 雑草や害虫の防除にもご苦労があると思います。


虫が出たってそんなにうんと増えることはないんだけど、草だけは、特にヒエは退治しねえとダメだ! もう地面が見えないくらいビッシリ出てしまうことがあるの。除草剤は撒くんだけど、抵抗性も出てくるから。後から後から出てくるときは、何回も草取りするんだあ。


― 川西屋酒造店や酒販店の皆さんも田んぼに来られたんですよね?


そうそう。稲刈りは去年で2年目かな。川西屋さんとは、酒米作りはじめてからもう25年以上だね。


― 昨年の稲刈りに〝飲み手代表〟として来ていた工藤(恵美子)さんが川西屋さんに入られました。


とうとう勤めちゃったよ‼︎(笑)


やっぱり、うまい酒を造ってほしいな

 

―― 7月に工藤さんが来たときに、「欣三さんと若水に導かれて酒屋になっちゃったよ」と言ってましたね(笑)。そういえば欣三さんは、川西屋さんのお酒だと「丹沢山 純米吟醸たれくちの酒」がお好きだとか。

 

圧力をかける前の自然に落ちてくるやつな。ちょっと白っぽくて、完全な透明じゃないやつ!

 

― ご自分で作ったお米が日本酒になるというのは、いかがですか?

 

うん。酒蔵にも2回くらい見にいったよ。いや、造りの時期には行かねえよ⁉︎ 空いてるときにね。やっぱり一生懸命作った稲だから、うまい酒を造ってほしいな。

 

(平成27年6月14日、9月21日 談)

加藤欣三さんは取材開始当初より闘病生活をされていらっしゃいましたが、平成27年11月にご逝去されました。心よりお悔やみ申し上げます。

 

※記事は2017年1月発行 goo-bit第3号第3版より転載しました。