「酒農会談」in 有隣堂ビブリオバトル 第2回

有隣堂ラスカ小田原店 “酒本”売り場
有隣堂ラスカ小田原店 “酒本”売り場(有隣堂ビブリオバトルFacebookページより)※画像をクリックすると有隣堂FBサイトに飛びます。

◎2016年8月20日に小田原駅ビル「ラスカ小田原」で開催されたイベント

 

「かながわ酒&農マガジンgoo-bit×ビブリオバトルin 有隣堂 ラスカ小田原」~ぐびっといこう!神奈川の酒・農と本を味わう会~

 

 の第2部で行われたトークセッション「酒農会談」の模様をまとめました!

 

 第2回をアップします!(2017.8.6)


第2回

鈴木 そんな若水ですが、また工場長とは別の視点で、冬の時期は蔵で「麹屋補佐」として働かれている工藤さんに、若水について。そして欣三さんとの出会いから川西屋酒造店入社に至るまでをお話しいただければと思います。

 

工藤 はい。2年前の秋、私もお酒が大好きで川西屋のお酒も含め色んな日本酒を飲んで楽しむ普通の主婦で、そういう生活をしていたんですけど、工場長から欣三さんの田んぼの稲刈りに「ちょっと来ない?」と。

 

まあ暇そうだったんでしょうね(笑)。ちょうどその日は蔵から工場長ともう一人若手の蔵人と、長くうちとお付き合いがあって苦楽を共にしてくださっている酒販店さんも3軒いらしていた。ただの飲み手、ただの飲兵衛としてそこにいたのが私だったわけですね。

 

現地に行ったらコンバインがあって。すごい近未来的なメカなわけですよ。私なんて田植えとか稲刈りとか見たことないので、そんな機械を間近で見るのは初めてだったんです。コンバインの作業前に、刈った籾が出てくる所に不具合があったらしくて、欣三さんが銀色のテープで補修してたのが私の中では印象的で。

 

「ああ、農家さんてこの農機具のメンテナンスも全部自分でやるんだ」と。多分そのコンバイン自体は普通のクルマよりも全然高くて例えばベンツの一番高いのが買えちゃうくらいの値段だと思うんですけど、「買ったら自分で全部面倒を見るんだ。農家さんて何でもできなきゃダメじゃん!」と思って。

 

植物を育てて収穫するっていういわゆるお百姓さんの仕事以外も自分が持っている器具とか設備のメンテナンスも全部自分たちでやってらっしゃるというのがまず田んぼに着いて初めて知ったことでした。

 

ちょっとカッコいいなってったんですよ。おじいさんですよ、欣三さん。私で言うと自分の父と同じくらいの年齢の方だったんですけども、ちょっとカッコいいなって思ったのがまずその朝の印象で。稲刈りの作業で私もコンバインに乗せてもらったんですけど、それがすごい大変!

 

機械だからクルマが運転できればできるだろうと思って軽い気持ちで乗せてもらったんですけど、とんでもはっぷんで。

 

右手と左手で別々のことをしながら、しかも田んぼの中ってガタガタしてるわけですよね。そこを曲がらずにまっすぐ刈り取って、しかも刈り取ったあとの稲を付属のトラックに入れる・・・後ろ(の画面)にある、こういうコンバインの先からガガガって籾が出てくるんですけど、それを溜まった時点でトラックに載せる。今日は私たちが来ているけどいつもは欣三さん一人でやってる、もしくはご家族だけでやってる。

 

「トラックの背中がいっぱいになったら乾燥場まで持っていくんだ」とか話しながら、けっこう身軽にやってらっしゃるのを、じゃあ私もできるだろうと思ってやってみたら全然ダメ。

 

右手と左手で別々のことをやるんです。コンバインをまっすぐ行かせるのと、稲を刈るクワガタの刃みたいな部分を地面から着かず離れずの所に置いてなきゃいけなくて。大きいコンバインが直角に曲がんなきゃいけないというのもとてもじゃないけどできない。

 

もう目が♡マークになりますよね。だって初めて会った年配の男性がそういう作業をなんなくこなしつつ、しかも右も左もわからない私たちに色々説明してくださって、その日やろうと思っていた作業も暗くなる前に終わらせる。

 

 

「欣三さんすげーな」って思って、しかもその場に「米を作ってくださっている欣三さんと、お酒を造る酒蔵の人間と、できあがったお酒を消費者に届けてくださる酒屋さんと、一般消費者の私」がいて、若水がどうやってみんなの口に入っていくかがすごくよく見えた。

 

秋の一日、天気が良くて丹沢や箱根の山並みが田んぼからすごくよく見えたんですけど、そういう風景の中にいさせてもらって、「ああ、このお米がどうやってお酒になるのかな? お酒になるところを見てみたいな」と思ったのが私が蔵に入るキッカケになったところです。

 

鈴木 若水についてはいかがですか。

 

工藤 酒造りには2シーズン参加していて、私は酒米に麹菌を繁殖させてお酒の原料の一つになる「米麹」を作る作業をお手伝いしています。

 

若水はさっき工場長からもありましたが水を吸いやすいです。吸わなすぎるお米も困るんですけど、吸いすぎるお米というのも「ウチのお酒」にするには、いいところで吸水を止めてやらなければいけない。

 

見極めが大変ですが、長年欣三さんとのお付き合いもあるだけあって十何年と若水を使い続けているので、扱い方のノウハウを蓄積してきており、ようやく思った通りの状態でお酒にできるようになっている、というのが今の川西屋での状況です。

 

米麹にする麹ってカビ菌なんですが、麹室(こうじむろ)の中は繁殖しやすい温度と湿度になっています。若水はカビが中に入りやすいお米ではあります。

 

ただ熱くなりすぎちゃうんです。植物の発芽熱と一緒でカビが繁殖するときに熱を発生させるので、熱くなりすぎるとそれは彼らにとっていい環境ではなくなってしまう。そこを熱くなりすぎないように、でも繁殖はきちんと進むようにというコントロールをしてやるのが若水ですごく気を使っている麹室での作業です。

 

鈴木 ありがとうございます。発芽熱という言葉を聞いて思い出したのが、欣三さんから聞いた育苗過程での発芽熱の話です。

 

やはり稲の苗を育てるときにすごく熱が出ると。そのとき欣三さんが教えてくれたのが「苗半作」という言葉です。初めの苗作りが全体の半分くらい重要なものであるという意味かと思いますが、そのあたりについて福嶋さんに伺います。育苗過程で気を付けなければいけない点は何でしょうか?

 

福嶋 そうですね。種を蒔くまでに土壌を作るんですが、石を全部取るんですね。土木建築の業社さんに頼んで砂を山から買って、それをハウスで1ヶ月くらい干して、毎日砂を練るっていうか、かき混ぜるんです。

 

鈴木 ちなみに山というのはどの辺の山なんですか?

 

福嶋 山はね、業者さんが「いい赤土が出たから!」って言ってきてくれるの(笑)。ダンプで4台とかどんどん来ちゃうんです。たまに大きい石が入ってるからどけたりして。

 

それを乾燥させてサラサラの砂にまでしなければいけない。砂の準備に1ヶ月以上はかかってます。(育苗は)4、5軒でやっていて、小っちゃいショベルカーを使うんだけどそれを父しかできなくて。やる人がいなくなっちゃうって言って、去年は私がそれを手伝った。

 

鈴木 やってるんですか!?

 

福嶋 やりました! 砂が自分にかかったりしながら。やったんですけど、結局私一人に負担がきちゃうから、今年は砂を買ったんですね。20キロの袋で。すごいですよ、フォークリフトで何台分くらいの大量の砂を買ってやりました。まあ砂づくりで今年は楽しちゃったんですけどね。

 

砂を入れて種を蒔いて、水を撒いてまた砂を入れて・・・。小さいハウスで、温度が32℃になったらもうダメなので、30℃くらいまで上がるようにして、箱をぴったり全部重ねちゃうんですね。

 

でも苗の力で、伸びてくると浮いてくるんですよ、箱が。ちょっと重なった状態なのに、すごいなと思う。もやしの白いやつみたいなのがいっぱい出てきて、それが4センチくらいになったら外の大きいビニールハウスでまた密閉して温度管理をする。

 

鈴木 その時点では日光が当たっているんですか?

 

福嶋 ハウス内を半透明にして直射日光を当てないようにして。そこで段々緑になってくるような感じで。5~6センチくらいになってからやっと出荷します。外に出しても毎日、朝昼晩と水をかけなきゃいけない。植えるまでの田んぼの準備ができるまで毎日、朝昼晩は水やり。田んぼに水を入れてトラクターも。

 

鈴木 田んぼの準備は、それはそれでトラクターでやって。

 

福嶋 やって。こっち(育苗)はこっちでやりながら「田んぼの準備ができたらいつでも植えたい」という状態まで持っていく。田んぼの準備ができないと苗を植えるときに10センチ以上になっちゃって、田植え機がうまくつかまない。

 

そういうときもあるし、早く植えすぎちゃうと逆に短いから(深く)植えすぎて、機械の調整をうまくやらないと泥の中に全部埋まっちゃうんですよね。

 

暴走族って最近よく言われるんですけど、(近所の)おじいたちに。結局、田植え機のスピードを上げちゃうと・・・

 

鈴木 ?・・・あ、智子さんが「暴走族」!?

 

福嶋 そうなんですよ(笑)。まわりの近所の人とか、結局女の人が乗ってることがまずない状態だから。そこらへん、おじいさんしかいないからしょっちゅう声をかけてくれるんです。気になって。で、逐一見てるんですね。

 

鈴木 見てるんですね(笑)。

 

福嶋 見てるんですよ! 色々聞きたいことがあるようで。

 

鈴木 ノウハウみたいなものを?

 

福嶋 そうなんです。多分、父には聞きにくかったんだと思う。私はそれを全部聞いているわけだし、それを聞きにくるんですよね。

 

鈴木 どういうことを聞かれるんですか?

 

福嶋 例えば田植えをするにも、真四角に全部植えるんですけど、デッドゾーン、植えられない部分が絶対に出てくるんですよ。

 

鈴木 機械も大きいですもんね。

 

福嶋 そうなんですよ。それで植えるときにそのデッドゾーンをなくすための父からの秘策を「そこはバックを向いて」とか聞いてたんです。

 

手で植えなおすということがなく、角まで田植え機でいけるように。おじいさんたちは手でやってるんですよね。それを多分、父に聞けなかったので、私がやってるのを見て聞いてきたり。

 

私は考えなくても聞いていたので、できる。でも父はそれを考えながらやってきていた。やっぱり頭を使わないとできないんですね。いかに楽をしようじゃないけど、余計な手間を作らずにすんなりやらないと、一つの田んぼだけずっとやってるわけにはいかない。あまりにも量が多いんで。

 

鈴木 昨年は欣三さんがご病気だったので取材に伺ってもお話を聞けたり聞けなかったりでしたが、それでもお母さんに会えたり、智子さんや妹さんに会えたりして何らかの話を聞いたり写真を撮ったりして帰っていました。

 

母娘三人の女性でやられてますけど、いつ行っても元気に作業されている姿を見て、こちらも「いいものを作らなければいけないな」と思って過ごした昨年の半年間でした。

 

試飲の時間も迫ってきまして、そろそろ飲みたいという方も多いかと思います。最後に川西屋酒造店の米山工場長にお酒の熟成のこと、お燗酒という飲み方の話をいただければと思います。

 

米山 お酒には2種類ある。開けてすぐ飲んで旨い酒。逆に赤ワインのようにある程度酸化させて、少し空気を含ませてから旨くなる酒。今日、並んでいるのは後者ですね。

 

うちの得意としている方なんですが、うちはもう一つ「隆(りゅう)」というブランドがあって、こっちはグラスで香りなどを楽しんでもらいながら冷やでも飲める。熟成されたものは燗にしてもいいというのがありますけど。

 

燗酒というのはもう酒造計画の最初のところ、例えば吸水、麹菌の種類、今日何グラムを使うか、もうそこから決まってくるわけですね。だから、ただ温めて「あ、この酒ちょっと燗にして美味しかった」。それは正直言って燗酒ではない。